1932年公開作品。2週間前に同監督の『怒りの日』を見て感動したんで、他の作品を見たくなった。市立図書館でビデオを検索したら『ヴァンパイア』があった。貸出し中だったので、心待ちにしていた映画だったが、見てガッカリだった。
名作『裁かるゝジャンヌ』と『怒りの日』に挟まれた作品だし、ウィキペディアの解説を読んでもそそられた。しかも、ぼくは一時期、吸血鬼映画に凝ってたことがあったのに、このカール・ドライヤーの『ヴァンパイア』を知らなかったことがしゃくだった。
それでなんだけど、吸血鬼映画としては余りおもしろくなかった。アヴァンギャルドな作品としてはどうだろうか。トーキーなのに無声映画を装い、カメラも凝っている。なので、1920年代の優れたアヴァンギャルドな映画をいやでも思い出させる。
『カリガリ博士』、『吸血鬼ノスフェラトゥ』、『戦艦ポチョムキン』、『アンダルシアの犬』などがとりあえず思い出される。アートな作品としてこれらと比べてどうなんだろう。こみ上げてくるようなパトスが『ヴァンパイア』にはない。『裁かるゝジャンヌ』と『怒りの日』には十分にそのパトスが感じられた。カール・ドライヤー監督は「吸血鬼」ではなくて、「魔女」映画に尽きると思った。ドライヤーの「魔女」映画の根幹にジェンダーに向きあうスタンスがあるからだと思う。