2015/03/21、ンチチビルのダダリズムを聞いた。小さな空間に大勢のオーディエンス。一番前の椅子に座った。目の前に2台のドラムセット。音が渦を巻いて体に沁みこんできた。
ダダリズムの音が心の何かのスイッチを入れたらしい。歩きたかった。ンチチビルを出るとすぐJRの高架にぶつかり、そのガード下をくぐり抜けると釜ヶ崎だった。路上で男たちが寝てて、路上で黒猫たちが遊んでいる。一泊1400円の安ホテルの看板の明かりで、街路樹の白いモクレンの花が闇夜に浮かび上がる。孤独な街の白いモクレンは場違いな花嫁衣装のようで淋しすぎた。
街に漂う小便の匂いを嗅いで、強く昔を思った。40年以上も昔の20代前半、オレはこの街にいた。日雇いをやっていたので早朝に寄せ場に通った。路上に並ぶ飯屋で朝食を食い、人夫を集めるマイクロバスがぎっしりと並んだ、喧騒の中でその日の働き口を得た。夕方、街に帰り、飲み屋で、コップに注がれる焼酎を飲んだ。軒を連ねる飲み屋から笑い声や罵声と共に「ここは天国釜ヶ崎」の演歌が流れていた。今、あの喧騒はない。変わらないのは小便の匂いだ。
三角公園を目指したが、見つからない。迷ってしまったらしい。強い酒が飲みたかった。でも、のれんをくぐるのを気後れしている。今じゃオレはこの街の余所者だ。三角公園を探して歩き続けた。やっと見つけた夜の公園に佇んで、この街に引っ越してきた最初の日、公園の地べたに並べられた日用品の品々の中から電気炊飯器を買ったあの日を思い出した。会社勤めに嫌気がさして吹き溜まりに流れ込むようにしてこの街にやってきた。あの日、街の喧騒に救われていたが、今の釜ヶ崎は淋しいだけの街だった。
(Facebook より転載)