最近は小説というと児童書ばかりで、大人向けの一般小説はほとんど読んでいない。児童書は活字が大きくて、ページ数も少ないので一気に読んでしまえるのがいい。しかも、西洋のものは内容がけっこう深かったりするので、大きな感動が得られる。小説の読書に余り時間をさけないぼくには、児童書との付き合いは深まるばかり。
それにしても、本書を手にしたときはちょっと考えた。幼い少女が野生のこうのとりの頭をなでている表紙なんだ。可愛いよナー。こんなんを読んだら癒されるだろうなーと思いつつ。可愛いだけの物語を大人が読んでいいものかと躊躇した。
結局、可愛さに負けて読んだが、可愛いだけの小説ではなかった。最後には深い感動が待っていた。マイカとは主人公の少女で、父さんと母さんの3人家族。それと飼いイヌが一匹。ある朝、つがいのこうのとりが古い納屋の屋根の巣にやってきた。7年振りのことだった。その年にマイカが生まれたので、だから彼女はこうのとりがはこんできてくれた、と聞いて育った。
でも、近所のませたおとこの子が、おまえはママのおなかから出てきたんだと教えてくれる。幼い子どもの性への関心がそこはかとない雰囲気を漂わせるシーンなど、かなり良かった。
さて、つがいのこうのとりは3個の卵を生み、3羽とも無事にふ化する。しかし、その中の1羽が白ではなくて灰色だった。いつまでも飛ぶことのできない灰色こうのとりは、とうとうアフリカへ渡っていく他のこうのとりから置き去りにされる。それをマイカが可愛がることになる、というのが物語の骨子だ。
著者のベンノー・プルードラは訳者のあとがきによると、東ドイツの著名な作家だそうだ。東西ドイツ統一前から何冊も小説を発表して、西ドイツでも高い評価を得ていたという。本書が出版されるのは1991年。ベルリンの壁の崩壊が1989年。あの時代の東側の作家の作品だから、少女と野生動物の単なる叙情的な物語であるはずがない。
この小説には「自由」とか「解放」とかが語られているわけではない。でも、物語の根底にそれらが確かに感じられる。直接に「自由」をテーマにしないカタチで、それに感動させられるラストはほんとにすごいと思った。