ヴァレリー・デール著、堀内久美子訳(ポプラ社、2008年7月発行)
フランス人作家のヤングアダルト小説。フランスとドイツで児童文学賞を受賞していることから評価の高い小説だと知るが、読んで納得した。しかし、内容はかなりキツい。パリ近郊の中学に通う12歳の少女リリが、夏のバカンス中に書いた日記という形をとっている。
リリの家庭は両親と3人暮らし。3人はバカンスで海辺の街に車で向かうが、途中のサービスエリアで両親はリリを捨てる。リリはそのサービスエリアで3人家族が飼い犬を捨てるのを目撃する。その捨て方がなんともキツい。別の家族はおばあさんを捨てる。リリは捨てられた犬と一緒に眠るが、犬は犬でプライドが高くて、捨てられたと認めていない。探しに戻ってくる家族を待っている。
日記には辛辣な文章で埋められている。中でも両親のことを「二人は子どもが一人いて満足している。この世で自分たちが生きたというしるしを、永遠のかけらのように残すことができるからだ。」と表現している。すごいな、全く感心してしまう。自分のことは「聞きわけのいいおとなびた女の子」と書いている。
これらはあくまで日記というカタチをとったフィクションなのだが、それにしても最高に辛辣で、そこがおもしろくて読みはじめたらやめられない。最後はフィクションの世界からいきなり海水浴場の現実が舞台となる。少女は砂浜で日記を閉じる。波打ち際で両親が呼んでいる。とてもいいラストだ。
それにしてもぼくが本当に驚いたのは、訳者あとがきに書かれていたことだが、本書はフランスやドイツの学校で教材として使われている事実だ。ぼくは日本の中学校で使われている教材を全く知らないので何とも言えないが、こんな小説を題材に議論をしたらとてもおもしろいと思う。
本書の随所には子どもが描いた風な鉛筆タッチの挿絵がある。これがムチャいいセンス。おもしろいを通り越して、つくづくとすごい小説だと思う。