10 YEARS AFTER / 長坂芳樹 写真集

ちょっとのつもりが読み出したら止められなくて、本書巻末の「カレラノユクエ」という著者の記述を全部読んでしまった。2005年春、著者は10年後の撮影のためにニューヨークに向かう。10年前の4年半、ニューヨークで暮らし、写真を撮っていた。そのときに撮影したアーティストの10年後を撮りにニューヨークへ行ったのだ。

写真集には、10年前の10人の若いアーティスたちのモノクロの写真で始まる。続いて、10年後のカラー写真、そして「カレラノユクエ」と題された長坂芳樹氏の文章によって構成されている。その「カレラノユクエ」を読みながら、10年前の、10年後の写真を見ていたら止められなくて、最後まで読み、見てしまった。そこにはニューヨークのアーティストが生き生きと描写されている。

写真は撮られた瞬間から過去になる。音楽はサウンドが放たれた瞬間に消えている。ぼくたちは画集や写真集、CDで音楽を聞くなど、すべてが過去でしかないことを濃密に感じさせてくれるのがこの写真集だと思う。

「アーティストとは職業に与えられた名称ではなく、アーティストなる生き方を選択した人たちのことだ」と本書のまえがきで桐羊三氏(UPフィールド主宰)が書いている。

アーティストって、とても甘美に響く。ぼくはアーティストを夢見たこともあったけど、実現しなかった。生活に追われながら、アート鑑賞、映画鑑賞、音楽鑑賞などに少なからずのお金と多くの時間を使うばかりでアーティスにはなれなかった。だから、アーティストという言葉はいつまでも甘い響きを持っている。

小学校に行くよりも、ずっと前に母はぼくにクレヨンを与えてくれた。ぼくは広い和室の白無地の気品あるふすま何枚をもキャンバスにしてクレヨンを使った。祖父と父の怒りは激しく、いまだにぼくはその記憶にうずく時がある。小学校に入るとほどなくして絵のコンクールでぼくの絵は金賞となり、大きな小学校の大きな玄関に貼られた。金賞と書かれた金色の紙片の輝きを今でも覚えている。しかし、大家族の生家の人々は、ぼくが運動会の競争でビリから2番目だったことは、何かにつけて長く話題にしたのに、絵のことが話題になることはなかった。おそらく没落した商家の人々にとってアートは金儲けにとってじゃまなものだったに違いない。

真夜中、この写真集を眺め、読んでいると不思議な時間感覚に襲われた。
著者のサイトにはこの写真集の10年前にあたる一部分が掲載されている。また、本書に収録されなかった写真もそこにある。

春日出版、2008年4月発行

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カテゴリー: Art