小さなお城 / マルシャーク(文)とワスネツォフ(絵)のロシア民話の絵本

ほのぼのとしたストーリーと絵の絵本。ほんわかとした気持ちにさせてくれる。カラフルに彩色されているけど、ロシアの絵本独特のくすんだ感じで落ち着いている。解説によると多色刷りリトグラフだという。カエルとネズミ、ニワトリに対して悪役のオオカミ、キツネとクマが登場する。これら動物たちの描写が程よく愛くるしい。動物ばかりでなく、花々も愛くるしい。この絵本の本当の主人公ともいうべきお城をリズミカルなテキストを読みつつ眺めていると、お城もまた息づいていくる。

1917年のロシア革命後、ロシアの絵本は大胆な構成や彩色もって登場して、1920年から30年にかけてが黄金期だった。30年代は社会主義リアリズムのもと、自由な表現は禁止されて絵本も生真面目な写実主義になっていく。

1917年の革命直後、政治宣伝ポスターなどを手がけた中心人物がレーベジェフ。大胆に単純化した人物表現で視覚に強く訴えた。その手法が1920年以後の「絵本革命」を生み出す。そこに詩人のマルシャークが軽やかなテキストを添えたのだ。

本書は1947年に出版されたもの。ロシア民話をもとにしたマルシャークのテキストに、芸術アカデミーでレーベジェフに師事したユーリー・ワスネツォフが絵を描いている。社会主義リアリズムから時が経過し、窮屈な写実主義は薄れたように感じる。かつ絵のそこかしこに1920年から30年の絵本革命の痕跡が見える。

小さなお城
文 サムイル・マルシャーク
絵 ユーリー・ワスネツォフ
訳 片岡みい子
発行 平凡社、2007年12月

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カテゴリー: 絵本