昨夜、本書を読んでから寝たら、闇の中に表紙の絵の少女が浮かび上がって、しばらくは寝付けなかった。アンジェラ・バレットの描くとても印象的な表紙の少女だ。
彼女はけがをしているらしい大きな白い鳥を胸にしっかりと抱いている。粗末な身なりの彼女の服に鳥の血がついている。長いばさばさの金髪が風になびいている。恐怖と不安でいっぱいの表情だが、何をするべきかが分かっている固い意志をも秘めている。
本書には、生粋のサクソン人らしくしっかりとした骨格に金髪、深くくぼんだ目はすみれ色。せいぜい12歳ぐらいで、垢じみた顔にもかかわらず、湿原に棲むという美しい妖精を思わせる、と記述されている。
湿原を背景に立っているが、湿原の向こうは海で多数の軍艦や戦火の煙が見える。これも読み進むと分かるが、海はドーバー海峡で、第二次大戦初期の優勢なドイツ軍にイギリス軍がフランスのダンケルクの海岸に追い込まれた様子をイギリス側から見ている図になっている。
本書はポール・ギャリコが1940年に発表した短編小説『スノーグース』にアンジェラ・バレットが絵を描いた2007年の新刊の絵本だ。絵本というには文章が多く、また、大きな絵もあるので小説の挿絵と言うわけにもいかない。
イギリス南東部の水辺の地に渡り鳥を愛し、人を避けて暮らす一人の男の画家がいる。けがをした鳥を治療することができるという噂をきいて少女が一羽のスノーグースを持ち込んだことから二人の交際が始まる。長く顔を見せないこともある少女だが、元気になったスノーグースが二人の仲立ちになるように、少女の訪れは何年間にもわたる。ある日、男は少女が子どもではないことに気づく。
表紙の絵は、この絵描きが少女との初めての出会いを思い出を頼りに描いたものとなっている。とても印象深い絵であることには深い理由がある。
スノーグース
原題 The Snow Goose
著者 ポール・ギャリコ
画家 アンジェラ・バレット / (c)2007 Angela Barrett
訳者 片岡しのぶ
発行 あすなろ書房、2007年9月
《アンジェラ・バレットの絵本 ほか》
キッチンの窓から / アンジェラ・バレットの絵のあるイギリスのクッキングブック
スノーグース / アンジェラ・バレットの素晴らしい絵
アンジェラ・バレットの素晴らしい絵「氷の宮殿」
アンジェラ・バレット絵の絵本 / 絵本 アンネ・フランク
Angela Barrett の美しい絵本/Snow White