海女の珠とり / お能の絵本シリーズ第1巻「海士」

能の物語を観世流能楽師である片山清司氏がやさしく書き下ろした文と、一流の画家による絵による「お能の絵本シリーズ」の第1巻が「海士」を原作とする『海女の珠とり』。この巻の絵は日本画家の岡村桂三郎氏。非常にダイナミックな絵。しかも細部は抽象化されているので、想像を膨らませて物語の世界に没入できた。

唐の国の皇帝から日本に贈られた宝の一つの珠が讃岐の海底に住む竜王に奪われている。それを取り戻すために、都から位の高い大臣が身分を隠して讃岐の漁村に入り、若い海女と夫婦になる。やがて二人の間に男の子が生まれる。この子が都で成人し、身分の高い位についてから、母の消息を尋ねて讃岐の漁村を訪れるというのが本書の始まりとなっている。

母である海女は竜王から珠を奪い取るために命を落としている。村に到着した子は目の前に現れた幽霊である母から昔のいきさつを聞き、母を手厚く弔う。そして彼女は心安らかになって、成仏をする。

作者によると、この能のストーリーには海女という職業への身分差別と女性差別といった禁忌が含まれていると解説されています。なるほど、父の大臣は位を隠して、身分の低い女性を利用する目的で夫婦になったわけですから。

しかし、そうした身分の違いを超えたところにある母と子の情愛に、人は感動するのでしょう。これはとてもよく理解できる。しかし海女の民がこのストーリーを自分たちの母子情愛として語るとしたら、それは余りに哀れだと思う。身分制の世の中とは、そういうものなのでしょう。

〈お能の絵本シリーズ〉第1巻 海士
海女の珠とり
文 片山清司
絵 岡村桂三郎
発行 アートダイジェスト、2002年4月

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カテゴリー: 絵本