成瀬巳喜男監督/妻

1953年製作。結婚十年目を迎えた夫婦の物語。夫が上原謙、妻を高峰三枝子が演じている。戦後の成瀬巳喜男や溝口健二の映画を見ていて、作品の背景に終戦があることをいつも感じている。たとえ、この映画のように「戦争」という言葉が一言もないにしてもだ。年格好からこの夫に兵隊の体験がないはずがない。1953年は戦後8年、ぼくは7才。この上原謙を見ていると、父を思い出す。女性事務員とあいびきをしていた・・・ということではもちろんない。

父もホワイトカラーだった。この映画のように専務のお供で出張をしていたので、そこそこの役職についていたが、当時は、たいていが安月給だった。いつも、帽子を被り、帰宅して脱いだ背広を母がハンガーに掛ける所作がそっくりだ。布団に入って、大衆小説の月刊誌「オール読物」や「宝石」を読んでいる様もそっくりだった。本当に当時のちょっとした日常を次から次へと思い出させてくれる映画だ。

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