1938年公開。新内語りの男女の一組の物語。長谷川一夫が鶴次郎で太夫、山田五十鈴が鶴八で三味線弾き。二人の演技にテンポの良いめりはりがあり、その上、山田五十鈴の舞台上での三味線を弾く姿の艶やかさがたまらない。芸道物の味付けだが、主題は好いた同士が結ばれないというラブストーリーだ。戦中の映画独特の濃密な時間が流れるという点では、溝口健二監督の『残菊物語』と同じだ。『残菊物語』の方にも名門の歌舞伎役者と奉公人との悲恋はあるが、芸術至上主義的な芸道物だった。戦中がそうさせるのか、この当時の映画には監督にも役者にも独特の緊張感がほとばしる。白黒はもちろんだが、画質の悪さを帳消しにする凄さがある。