片山健のネコ絵本の大傑作/タンゲくん

本書はネコ絵本の大傑作だ。ある日、平均的中流家庭風の一家団欒の夕餉どき、縁側からのっそりと見知らぬネコが入ってくる。そらが、そのまま居着いてしまうというストーリー。そのファーストシーンの夕餉がすごい。まだちゃぶ台を使っている頃だ。しかし、電気釜とかティッシュの箱が同じ床に置かれているので、戦後からだいぶんに経った頃と思われる。お母さんは台所仕事を終えて着替えたと思しき、おしゃれなワンピース。メイクだってしている。そんなお母さんにお父さんは満足そうにビールをついでいる。二人は晩酌を楽しんでいるので、見知らぬネコが入り込んで、娘の膝の上でくつろいでも、なんにも頓着しない。あっぱれな親御さんだ。

ネコは二人娘の妹になつくのだが、以来、この少女はネコの身を案じたり、優越感を満足しつつ、嫉妬心にさいなまれたりと、心の成長を経験するのだが、そんな教育的配慮を楽しむ絵本ではない。ひたすら、片山健の大胆きわまりない筆跡によるネコの存在感に圧倒されっぱなしになる豪快な絵本だ。

タンゲくん
片山 健 著
福音館書店 1992年10月20日発行

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カテゴリー: 絵本