こんなけったいなストーリーの絵本も珍しい。スタイグの絵本は特異な存在で、わたしは凄く好きだ。なかでも本書はアホらしさ加減がスタイグのなかでも白眉で非常に好きだ。お百姓のパーマーさんはブタ。ロバのエベネザーさんは雇われて荷車をひいている。早朝、二人は収穫した野菜を荷車に満載して町に売りに行く。売ったお金でパーマーさんは奥さんと子どもたちにお土産を買って帰途につく。途中、いろいろあって笑わせる。といってもそんなにたいそうな事があるわけではない。そこを笑わせるのがウィリアム・スタイグの腕なんだ。
スタイグの絵本の背後にあるのは家族愛だけ。あとは笑いを誘うポジティブな視点。これだけだと、薄っぺらな内容の絵本にしかならないと思うが、一旦、スタイグワールドに引き込まれると絵のすみっこに描かれている、なんでもない物にも笑ってしまう。とても不思議な作家だ。
日本語版は「ばしゃでおつかいに」のタイトルで、評論社(1976初版)から出ている。せたていじの翻訳もスタイグの世界にとっぷりと浸かっている感じで、とても暖かい。
Farmer Palmer’s Wagon Ride
Copyright (c) 1974 by William Steig
《ウィリアム・スタイグの絵本》
ウィリアム・スタイグらしいおかしな絵本/Pete’s A Pizza
ウィリアム・スタイグの夫婦愛の絵本/Caleb & Kate
ウィリアム・スタイグの変身する絵本/Solomon the Rusty Nail
ウィリアム・スタイグ(William Steig)/ロバのシルベスターとまほうのこいし