ロバート・B・パーカーのハードボイルド探偵小説『約束の地』

約束の地 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 110‐3))先月(2010年1月)、ハードボイルド探偵小説のロバート・B・パーカーが77才で死んだ。現役の作家だが、ぼくがパーカーの熱心な読者だったのは、初期の80年代の6、7年だけだった。それから現在までの長い間、パーカーへの関心を失ったままだった。それでも、死んだと聞いて、熱心な読者だった頃が思い出されて、『約束の地』を何十年ぶりかで読んだ。

70年代はカミさんの影響だが、フィリップ・マーローを始めとして、アメリカのハードボイルド探偵小説をかなり読んだ。ハードボイルド小説から黒人やマイノリティへの人種差別問題を学んだと思う。70年代後半にロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズに出会うと、これにぞっこんになった。カミさんは新刊の発売日を待って本屋に走り、すぐに読んでぼくに回って来た。ま、二人で同じ小説を話題にするという、今から思うと微笑ましいというか・・・、いい時代だったと思う(笑)。

黒人やマイノリティに向ける視線は、パーカーもそれまでのハードボイルド作家と同じだったが、差別意識は男と女の関係にまで拡大されていたことが、虜になる理由だった。また、ぼくらが話題にするのも、そこだった。主人公スペンサーは未婚で、元ヘビー級ボクサーの40代始めのタフな探偵。恋人スーザンは30代の離婚歴のあるハイスクールのスクールカウンセラー。

スーザンはつねにファッション描写も含めてすごく魅力的な女性に描かれている。スペンサーは彼女にむちゃくちゃ惚れていると同時に、仕事上では臨床心理士としての彼女の助言も求めている。その助言は、事件に対してだけじゃなくて、しばしばスペンサーそのものにも向けられる。

それはスペンサーが無意識に持っている男性の女性差別意識だったりする。男性意識の客観的分析に留まらず、その問題では、ときにスペンサーに喧嘩を売るような気の強い女性として描かれている。フェミニストと言ってもいいぐらで、この点で、多くの男性ハードボイルド小説ファンはスーザンを嫌っているんじゃないかと、想像できる。ぼくはそんなことはない。

スーザンにつめられるスペンサーは、ジョン・ウェインの演じるハリウッド映画の主人公を例に弁解をするがスーザンには通じない。ぼくにもちょっと通じない。ぼくが映画を見始めたとき、すでにジョン・ウェインはベテラン俳優で盛りを過ぎていた。ハワード・ホークス監督の西部劇の名作『赤い河』をリアルタイムで見た世代でなければスペンサーの主張は理解されないと思う。その頃、まだフェミニストはいなくて、ジョン・ウェインの演じる主人公は誰の目からも間違いなく”男”だった。

この”男の意識”が問われたのが、70年代から80年代だったと思う。ハードボイルド探偵小説って、全くのエンターテイメントなわけだけど、それゆえに時代をもっとも分かりやすく描写しているんだと思う。

『約束の地』にはフェミニストも登場するが、今から見ると扱いがちょっと軽いのではと思う。ま、30年も前のことだから。『約束の地』につづく数冊を読んでみたくなったが、ぼちぼちと。